「酒税のゆがみをなくし、酒文化の発展を」ヤッホー井手社長が直面した「ビールの高税率」

「酒税のゆがみをなくし、酒文化の発展を」ヤッホー井手社長が直面した「ビールの高税率」

ビールの値段が高いのは、ビールにかかる税率が高いからだということを知っていますか。「よなよなエール」「インドの青鬼」など個性的なクラフトビールメーカーとして知られる、ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)の井手直行社長は「酒税のゆがみによって、日本のお酒文化が悪い方向に進んでしまう」と危惧します。酒税について思うことや、海外のクラフトビール文化、若者のビール離れをどう食い止めるかを聞きました。(ライター・国分瑠衣子)

●ビールの税率が高いから、発泡酒の開発が進んでしまう

――酒税法では、ビールの税率は350mlで77円。発泡酒(47円)や第三のビール(28円)などに比べて高い税率です。酒税がネックになる部分は大きいでしょうか。

「ものすごいネックになっています。うちの『よなよなエール』の価格は消費税別で248円。248円のうち77円が酒税です。クラフトビール大国の米国は、安い州は酒税が数円というところもあります。

仮に日本のビールの税率が10円だったとしたら、よなよなエールは店頭に180円ぐらいで並びます。今の大手メーカーのビールをスーパーで安く買うのと同じぐらいの値段になります。だから当社のビールはすごく酒税が響く価格帯です。

大手メーカーも状況は似ています。ビールの税率が高いから、今の税制に合わせて、税率の低い発泡酒や第三のビールの開発を一生懸命やっている。付加価値をつけようとプリン体ゼロなどの『機能性ビール』というジャンルまで登場した。他にも安く酔えるストロング系チューハイも出ています。

企業の貴重な研究開発費を、低い税率のお酒づくりに回しているのはもったいない。それに日本のお酒文化が悪い方向に流れるのではと心配しています。

消費者も発泡酒が飲みたいわけではないと思うんです。今は『酔えればいい。だから発泡酒でいいや』という流れになってしまっている。お酒がつくられるストーリーや、つくり手の顔を思い浮かべながら飲むのが楽しいのに、価格競争一辺倒になっているのが残念です。

大手メーカーも分かっているとは思いますが、いろいろな種類のお酒をつくっていますから、言いにくいのではないでしょうか。みんながおいしいお酒を適正な価格で飲めるようにして、メーカーも酒税にとらわれなければ、日本のお酒文化は発展します。そうしなければアンハイザー・ブッシュ・インベブなど世界の大手ビールメーカーにシェアを奪われてしまいます」

●酒税は一気に下げるほうがありがたみを感じる

――酒税法が改正され、ビールの税率が段階的に下がります。2026年10月には発泡酒などと一本化されます。

「今350mlで77円のビールの酒税が55円になり、22円下がるのはありがたいです。でも2020年から6年間もかけて段階的に下げるのは時間がかかりすぎると感じます。税率は一気に下げたほうが消費者に分かりやすいし、ありがたみを感じやすいのではないでしょうか。

時間がかかるのはやはり、大手ビールメーカーさんの事情があるのだと思います。ビールが強かったり、発泡酒、リキュールが強かったりと各社それぞれ得意とする分野が違います。今回、ビールの税率は55円に下がりますが、発泡酒や第三のビールは増税になります。発泡酒や第三のビールが得意なメーカーにとっては痛手になります。

本来、消費者を第一に考えるならば、アルコールの度数に応じて課税するのがシンプルで分かりやすいのですが、ビール以外にも日本酒や焼酎、ワインといったさまざまな業界がありますから、なかなか足並みがそろわないのだと思います」

――日本には400社以上のクラフトビールメーカーがありますが、小さな醸造所が多く、経営は厳しいと聞きます。

「国税庁のレポートによると、日本のクラフトビールメーカーのうち、半分近くは赤字か営業利益が50万円未満です。米国にはクラフトビールメーカーへの優遇措置もありますが、日本はほとんどありません。

数少ない特例として、前年度の総課税移出数量が、1,300kl以下のメーカーには酒税を軽減するという特例がありますが、ギリギリで軽減対象になっているメーカーに聞くと『本当はもっとビールを作りたいけれど、超えると数百万円の優遇がなくなるので、つくるにつくれない』という声もあります。

当社もこのラインを超える時に利益を出せず苦労しました。『よなよなエール』は1997年に製造を始めましたが、2004年まで8年間は赤字が続きました。ある程度生産量が増えると規模のメリットが働いて効率化できるのですが、そこに至るまでが大変です」

●ビールの税額なのに、副原料が多いから「発泡酒」

――2018年の酒税法改正でビールに使う副原料が緩和されました。クラフトビールメーカーにとっては追い風ではないでしょうか。

「これまで風味づけとして副原料を使って『発泡酒』と表示されていたものが、ビールとして認められるのは良いことです。でもビールメーカーがこれまで使ってきた副原料をほぼ踏襲しているので、制限を取っ払ってしまったほうが良いのではないかと思います。クラフトビールメーカーには想像力豊かな人が多いので、これまでなかったものを副原料に使いたいと考えるかもしれません。

また、緩和された後でも、副原料が麦芽の重量に占める5%未満でなければ、ビールではないとされてしまいます。副原料を10%ぐらい使うと発泡酒になってしまうのです。例えば、ベルギービールはサクランボやオレンジの皮を使って非常においしい風味を創り出します。ビールにオレンジの皮をどのぐらい入れようが、ビールはビールです。

うちの人気商品に『水曜日のネコ』というオレンジピールやコリアンダーを使っているビールがありますが、副原料が多いので酒税法が改正された今も発泡酒です。一方で酒税額は麦芽を使う量によって決まるので、『水曜日のネコ』の酒税はビールと同じ77円です。発泡酒は『安いビール』というイメージがあります。副原料が多いからといって発泡酒に分類されてしまうのは残念です」

――若者のビール離れが進んでいます。ビールの税率が高いとますますビールから離れていってしまうのではないでしょうか。

「これまで国は、ビールは税収が取れるから高い税率をかけてきたのだと思いますが、時代は変わり、税収は減っています。若い人のお酒離れは進んでいて、ビールを飲む人がシニア世代になってきている。これは会社の将来にとってすごく大きな問題です。

幸いクラフトビールは、シニア層よりも若い30代のファンが多い。20代の人が40代になった時にビールを飲んでくれないのは困るので、若い人に魅力を感じてもらえるような開発を進めていきます。味を大事にしたいので、価格を重視した発泡酒や第三のビールはつくりません。酒税に惑わされることなく、味を追究します」

――一部のコンビニエンスストアでもクラフトビールを販売しています。国が酒類販売の免許制度を緩和して、コンビニでお酒が販売できるようになって販路が広がったのでは。

「当社の製品はローソンで販売しています。複数のスーパーでも売っていますが、どうしても首都圏に偏ってしまう。コンビニは全国にたくさんあって、手軽に買えるのが魅力です。クラフトビールの販路が広がると、大手メーカー一色から脱することができると思っています。他のコンビニでも扱ってほしいけれど、『よなよなエール』ぐらいの売れ行きだと興味がないというのはあるのでしょうね」

●2020年中に本社機能を移転、ふるさと納税制度にも貢献したい

――外国人は日本のクラフトビールをどう評価しているのでしょう。

「欧米人に非常に受けています。空港や公共交通機関でクラフトビールの販売をしたいという声もいただいています。日本でクラフトビールは、ビール市場の1%ぐらいですが、米国は10数%を占めています。日本には400社強のクラフトビールメーカーがありますが、米国は7000社を超えています。

米国では自家醸造(ホームブルーイング)が認められているので、クラフトビール文化が発展しているのです。ウォルマートなど米国のスーパーに行くと、日本を含め、世界のクラフトビールが数百種類も置かれています」

――2020年中に本社機能を長野県御代田町に移します。

「御代田町から熱心に誘致していただき、新しい事業所には一部ビールの製造機能も設けます。観光で訪れる人や地元の人に御代田町産のクラフトビールを提供したい。また、ふるさと納税の返礼品としても貢献したいと思っています。町や地元の人と連携して、御代田町を『クラフトビールの町』にしたいと考えています」

【プロフィール】
井手直行(いで・なおゆき)
ヤッホーブルーイング代表取締役社長。1967年生まれ、福岡県出身。大手電機メーカー、広告代理店などを経て、1997年にヤッホーブルーイングに入社。地ビールブームの衰退で赤字が続く中、ネット通販事業を進め、業績をV字回復させる。2008年に代表取締役社長就任。 弁護士ドットコムニュース編集部

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